南洋のジゴロ、クライアントを語る





 ワヤン(仮名)は、クタ出身の23歳。貧乏な家庭であったために、10歳ごろから新聞やたばこを売る仕事をしていた。

 ジゴロをはじめたのは17歳のころで、以前はジャカルタでインドネシア人の金持ち相手に仕事をしていた。  外国人向けの店の多いクタの繁華街を地元のバリ人がふらつくことはないのでバレにくいことから、離れて住んでいる親には収入の良い仕事についているくらいしか言っていないが、もしこの仕事のことが知られたら絶縁ものであるらしい。

 ここが、悪いことをしても親を大事にしてお寺に寄進をすればチャラになるという仏教の教え(そうでないという人もいます) のタイとは異なる点である。また彼は愛のない家庭に育ったようで、自分で稼いだ金は自分のために使うとキッパリいった。分けるのは同郷の仲間だけ、という仲間意識もなんだか日本人っぽい。

 「彼女」は3人いてみんな日本人。うち1人とはマジだというが、一番気に入っているくらいのノリで ある。写真を見せてもらったが、普通の子だった。 紹介したお店(おみやげや、旅行会社、ダイビングショップ) からのコミッションと直接もらった現金などでいつもは1回50万ルピア(US$1=Rp.7500)くらいを稼ぐ が、200万稼いだこともあると自慢げに言った。そんなときはたいてい親や兄弟を勝手に病気にしたり殺したりしている。そうだろう、と言い寄るとニヤニヤと笑った。

 仕事の有効な道具であるオートバイは仲間内ではかなりの普及率だが、車を持っているものは少ない。 しかし彼の旧友のマデ(仮名)は、ウブドに家を建てたそうな。  このおいしさを知ってしまったのでもうまともな仕事(学歴があってもコネがなければタダの人、両 方なければそれ以下)につく気になれず、この状態をずっと続けていたいというのが彼の第一の希望だ が、将来への漠然とした計画としては、ロスメン(安宿)やワルン(定食屋)を経営したいとのこと。 しかし、40歳ちょっと前くらいが現役最高齢らしいので、自分はまだまだやれると思っている。

●恐るべしネットワーク
 仲間内では、出会った日本人に関する宿泊先、帰国日、資金量、性癖などほとんどの情報がシェアされる。 なので「これは秘密だから」といってもひとりにいったらおしまいである。おしゃべりが好きなこともあり 軽い雑談と思っても向こうにかなりの情報を与えてしまっている、ということにたいてい後で気がつく。

 また、探りを入れようとしても、仲間内では都合の悪いことは口裏を合わせる。いきなり再訪問した日本人女性が「彼氏」の友達に彼の居場所を聞いても「田舎に帰っている」とかお茶を濁し、「他の女とデートしている」などとは決していわない。 逆に彼が戻ってきたら連絡させるから、と言って彼女の滞在先、滞在期間をきき出して彼にレポートする。

 彼らは、半年前に同業者のあふれる喧騒のクタから閑静なウブド、それもウブドでも目抜き通りのジャラン・モンキーフォレストを避けて、ジャラン・ハヌマンに今は落ち着いている。クタの競争の激化を嫌いのんびりやりたいのか、それともジゴロとしては2流半なのかわからないが、バリに進出してきているジャワ人のジゴロに対しては「ジャワ人ならジャワで仕事をしろ」と、面白くなさそうである。

 彼らは今、そこで香港、台湾人を狙っている。理由はお下劣な話であるがベッドでの活動が積極的とのことだ。あまりにも簡単な日本人に飽きてきたので、ちょこっと「他流試合」に挑戦といったところだろう。また、彼らにとって白い肌への憧れもそこにはある。黒人をもてはやす数少ない民族である日本人には考えにくいが、インドネシアにはその褐色の肌にコンプレックスを持っている人が多い。

 香港、台湾人の性癖については旅行者数の少なさから判断して一般的な情報かどうか疑わしいが、逆説的にいえばそれだけ日本人がマグロ状態ということなのだろう。金を払ったら払っただけ楽しむという貪欲な姿勢ではなく、まるでエステのように「あとはおまかせ」というのは日本人の特色だと思われる。白人からは、日本人のサービス(もちろん素人)はすばらしい、と絶賛されているのだが、、、、、(これは名誉なことなのだろうか)

 通りすぎた仲間のオートバイの後ろに乗っている日本人を指差して「あれとは前につきあっていたけど、もう飽きたから友達にやった」といった。 「もう飽きたって、、」と私はあきれた声で言うと「あの女は長期滞在してるから金が無い。狙うのは短期旅行者だよ」と、おしえてくれた。短期ツアーならば宿泊費は支払済みなので、所持金はほとんど食費とおみやげ代に使うだけだ。確かにそれは有効な戦略だと言える。

 その長期滞在者とはボランティアで遊んでやっている、くらいの感じで金は取れない分代わりの”いただくもの”は”みんなで”しっかりといただいているようであった。いやそれどころか、そういう盗撮ビデオが隣のジャワ島にある大都市スラバヤあたりでひそかに販売されているらしい。 金の無い人間からはこのようにして金をしぼりだすのである。「私は彼等にお金をあげてはいないのだから、、」とジゴロとただ遊んでいるだけと思っていても、彼らのほうが一枚上手である。

 ナンパというか仕事は、オートバイの後ろに乗せてしまえばほとんど成功だという。 イケてる子なら、背中の感触を楽しみながら幸せ気分で、途中でいうことをきかなくなるとそのまま人気のない場所までブッ飛ばす。帰る道すらわからないので、このときが一番金がとれるらしい。おみやげを買うためにしこたま現金を持っているのだからそれはそうだろう。

 「金を持っていなかったら、どうするのか?」ときくと、意外にも「ねばってみる」という返事だった。日本人が金を持っていないわけがないので、ホテルまで送って持って来させるなど長期戦に持ち込む。オートバイでいろいろ案内してあげたからか、最悪でもタダ飯やタダ酒にはありつける。

●素行はバレバレ
 私の泊まっていたロスメン(安宿)にも、男2人をはべらせてやってきた日本人がいた。別にケバくもなく、女王様タイプでもない普通のちょっとかわいい子だった。そしてバルコニーで肩を組んで写真を撮るなど、日本ならどってことないが普通のインドネシア人ならやらないことを白昼堂々としでかしていた。

 これを、従業員(といっても給料なし。ただの口減らし)の女の子に同じ年頃の女性としてどう思うかと尋ねると、最初は「関係ない、彼女はお金があるのだから」と言うだけであったが、「金があるならやっていいのか。自分ならそうするのか。」と突っ込むと、嫉妬と軽蔑の混じったまなざしで首を横に振った。

 その日本人はそのロスメンのリピーターだったので、従業員の彼女は日本人女性と複数のインドネシア人男性が朝から晩までなにをしているか見たり聞いたりして良く知っている。そしてインドネシア人はおしゃべりなので、あっというまに話は広まる。 もちろん彼女はそのことを私にも詳しく教えてくれた。 多少は尾ひれがついているだろうが、同じ日本人として恥ずかしくなるようなお話であった。

 ロスメンを経営する一族の男性はほとんどが画家で、毎日朝から夕方まで淡い色彩のウブドスタイルの絵を描いている。その横をその日本人が通りすぎると、ロスメンのみんなが無関心を装いつつその後姿を見つめている。絵に集中できないのでは、と尋ねてみるとただ失笑するだけだった。

 このようにバリの国際異性交遊は白昼堂々と行われているのであるが意外なことに、帰国後も送金するなどいれあげている日本人は予想より少なかった。ほとんどがまたやってきて一緒に遊び、帰国後は手紙や電話で無心をしながら他のカモを探すというパターンである。

 中にはあきれるほどに「親切で情熱的な」日本人女性がいるようで、デンパサールから日本へ向かうフライトに搭乗する数少ないインドネシア人の中に、一方的な「愛の呼び寄せ便」として日本に向かう若い男性が混じっている。いつもは群れているのにひとりで不安なのかキョドっているからすぐわかる。

 ジゴロの面々には、最初は家計が苦しいためにやむなくやらされているが確たる理想や希望を持っているなどもうちょっと純情なところを期待していたが、6-7人会ったすべてが半分ヤクザが入ったような顔つきで、金が第一、体がその次、それだけあれば世話はないという雰囲気であった。確かに彼らは満足な職を得られないためにこのような「ビジネス」に手を出しているのであるが、不本意ながらといううしろめたさは感じられない。

 ジゴロの中には親や兄弟がこの「ビジネス」を行っていることを知っている者もいる。よく彼らは信用させるために「彼女たち」を実家に連れて行く場合があるが、みんなが歓迎をしてくれるので疑う余地もなくなる。これは演技ではなく、お金に対する歓迎にほかならない。

 彼らとは話し合うだけでなく、冗談を言ったりギターを弾いてインドネシアの歌も一緒に歌った。日本人の前では甘いバラードを歌うらしいが、ダンドゥッという泥臭い歌謡曲は彼等も好きで私が歌い始めるとノリはじめた。

 ジャカルタに滞在しインドネシア人の性格もだいたい理解していたので、親しくなれたかなと思っていた。そのとき、「なにか飲むか」とワヤンがギターを弾いて歌いっぱなしの私にきいてきた。気を使ってくれたのだろうが、そのようなとき普通は言い出した人間が用意するものだ。しかし、彼はいつまでたってもそのそぶりを見せなかった。

 やはり私は金を持った日本人で、彼らの友達でもなんでもなかった。なので、誘われたがオートバイで一緒にジャラン・ジャランする(村を流す)こともやめた。もし一緒に行動をしたらもっといろいろなことがわかっただろうが、彼らの仕事の道具として使われるのがオチだ。親しげに見えたが彼らは私に一定の距離を置いていた。もし、愛という力があるならば彼らの心の中まで入っていけるだろうか。 しかしすっかりビジネスのターゲットになってしまった日本人をバリの男たちが純粋な目で見るのは困難であろう。

 このような人間は世界のあらゆる国に存在するが、数少ない関心する事柄はその語学力である。彼らはもちろん独学か、金をかけずに勉強してマスターしている。インセンティブがあれば「怠け者」と言われるインドネシア人だって「いい仕事」をするのだ。さすがに読み書きまでできる奴は少ないが、英会話学校に大金をつぎ込んでもさっぱり上達しない人の多い日本人が情けない。

●バリは良くも悪くも田舎
 国際異性交遊にうつつをぬかす日本人は少数だが、保守的なバリではかなり目立つ。普通のバリ人は言う。「そりゃ好きな女の子と手をつないで歩きたいけれど、そうしたらその子が村でどんな評判をたてられるか、、、」 バリは良くも悪くも田舎である。日本で当たり前のことがうしろゆびをさされることもある。外国人だから、と好意的に考えてくれる人もいるかもしれないが、初対面の男にひょこひょこついていく(日本では違うだろうが)ような行為はお互い納得ずくの遊びでも、たいていギラ(きちがい)とかげぐちをたたかれるのがオチだ。

 インドネシア語にはスディルハナということばがある。「控えめな美しさ」という意味で、理想的な女性像にもおきかえられている。ここまで書くとインドネシア女性がみんな清純であるかのように思えるかもしれないが、物欲にとりつかれた人間はどこにでもいる。コネがなければ給料なんて月に3〜5000円くらいで、これではいくら物価の安いインドネシアでも笑うしかない。

 そのため外国人を含めた金持ちとの結婚を夢見るマテリアリスティックなバリ女性もいるが、隣近所や町内会などから常に監視されデートや合コンどころか見知らぬ男と話す機会さえも無い単調な毎日を送り、親や親戚の勧める相手と結婚していくのが関の山だ。

 最近ではいたいけな日本人を守るためにJTBやHISなどの社名のロゴマークが柄になったアロハのようなシャツを着て、写真と名前(日本語とアルファベット)の入ったカードを首から下げた雇われガイドが現れた。

 市場で日本人2人を連れていたので「よう、デートかい。2人も連れて」と、ガイドをからかうと「違う。そんなことをしたら、会社に通報されてクビになる」と言った。しかし彼の連れていたのはJTBの社員だったので、とりわけ神経質になっていただけかもしれない。

 まじめだったガイドもダメモトでチップを要求したら予想外の金額を払ってくれるので、時間外のアルバイトをするようになり、そのうち安月給のガイドの仕事よりアルバイト収入ほうが全然多くなる。そしてガイドを辞めてフリーになり、日本人を狙って観光客の集まる場所にはびこり、無理やりガイドをしては法外なガイド料を請求する。

 法外なガイド料やコミッションなどの問題においてインドネシア人には日本人の考える「良心の呵責」といった概念は無い。なので自分の年収の何倍もの金額を引きずり出そうが罪悪感は希薄である。わかりやすくいえば「お金を持っているからいいじゃん」ということだ。
 一流ホテルに勤めている、ということも何の身持ちの良さの証明にならない。 

 また、ガイドたちは身の危険からは守ってくれるだろう(たぶん)が、地元の仲間の利益を優先するために買い物の値引き交渉には介入しない。件のガイドは「これ高いんじゃない?」と日本人がきいても、逆に「これは手作りだから、、」とかもっともらしいことをいってやりすごしていた。 手作り=高価・高級が日本の感覚であるが、人件費は安いし品質もピンキリである。

 こうしてみると、悪名高かった農協ツアーも遠い昔のような気がする。
 バリの日本人旅行者の男女比はなんと1:9くらいなので、日本男児はさぞかし入れグイ状態と思いきや褐色の肌に吸い込まれて現状は厳しい。  いやそれどころか、飛行機のトイレが混雑するなど良い思いはさせてくれない。

 また、ワヤンはその筋の病気になったことがあるらしいが、ジゴロたちが帽子を着用して事に及んでいるとは考え難い。はきちがえた(履き忘れた?)自由が原因の経済的、身体的、精神的ダメージについて同情の余地はない。 自己責任ってことである。

初出:MSNニュース&ジャーナル(2000年11月14日)を加筆訂正。



column
home
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送